生命保険と傘の期待値:人生の「損」を最小化する数学的思考とは【生死もギャンブルになる?】Vol.3

数学ⅠA

「いろいろなギャンブルの期待値」シリーズ、ついに完結となる第3弾です!

前々回の「パチンコ・競馬の「期待値」をガチ分析!数学的にギャンブルで勝つことは可能か?【そもそもギャンブルって何?】Vol.1」、前回の「競輪・宝くじの期待値をガチ分析!数学的に「得」をする瞬間はあるのか?【ギャンブルの戦略って?】Vol.2」はもうお読みいただけたでしょうか。

最終回となる今回は、少し視点を変えて、私たちの生活に最も密着している「生命保険そして番外編として「毎朝の傘を持っていくか問題」を取り上げます。

「えっ、保険や傘がギャンブルなの?」と思うかもしれませんが、数学のフィルター(期待値)を通すと、これらも立派な「確率のゲーム」であることが見えてきます。ゴリゴリの複雑な計算は避け、中高生から大人まで「なるほど!」と雰囲気を味わえるように解説していきます。


1. 生命保険の数学:究極の「不幸のギャンブル」

ネットで申し込むものから、店舗でじっくり選ぶものまで、世の中には様々な生命保険があふれています。実は、生命保険は別名「不幸のギャンブル」と呼ばれることがあります。なぜなら、構造上は「人の生死にお金を賭けている」からです。

生命保険のシンプルな仕組み

保険の仕組みを極限までシンプルにすると、こうなります。

  • あなたが死んだ場合: 保険会社があなた(の家族)に大きなお金を支払う(あなたの勝ち)。
  • あなたが生きている場合: 保険会社はお金を支払わず、あなたの掛け金をもらう(保険会社の勝ち)。

「生死を賭ける」と言うと聞こえは悪いですが、数学的・金融的な事実です。もちろん、保険会社が「あなたの生死でギャンブルをしましょう」なんて営業トークを使うことは絶対にありませんが。

自分の「命の期待値」を計算してみる

では、保険の期待値はどう計算するのでしょうか。ここで使うのが、過去の統計データから算出された「死亡率」です。

日本アクチュアリー会のデータ(2018年)によると、1年以内に死亡する確率は以下のようになっています。

  • 20歳男性:$0.059\%$
  • 30歳男性:$0.068\%$
  • 70歳男性:$1.54\%$

【シミュレーション】30歳男性の「命の期待値」

  • 死亡時の受取額 ($A$): 1,000万円
  • 1年間の死亡率 ($P$): 0.068% ($0.00068$)

【期待値の計算】

$$\displaystyle 10,000,000 \times 0.00068 = 6,800 \text{ 円}$$

【結論】

年間の掛け金が 6,800円 を超える場合、金額的には「損」となり、6,800円未満の場合、「入った方が金額的にお得」ということになります。

現実には、保険会社も人件費や利益(手数料)を上乗せするため、保険料が6,800円になることはなく、例えば年間15,000円などになります。つまり、生命保険もパチンコや宝くじと同じく、買う側にとって「期待値はマイナス」に設定されているのです。

それでも私たちが保険に入るのは、「万が一の時に残された家族が路頭に迷う」という致命的なダメージを回避するためです。期待値がマイナスだと分かっていても、安心を買うためにあえて負け戦に乗る。これが保険というシステムの本質です。


2. 番外編:毎朝の「傘を持っていくか問題」を数学する

さて、ここからは日常の些細なギャンブルです。

朝、天気予報を見て「降水確率30%か…傘を持っていくべきか、置いていくべきか」と悩んだ経験は誰にでもあるはずです。

「荷物になるのは嫌だけど、濡れるのも嫌だ」。このモヤモヤも、「ダメージの期待値」を使えば、数学的にスッキリと答えを出すことができます。

傘問題の「ダメージ(不快感)」を数値化する

まず、それぞれの行動によって受ける精神的・金銭的ダメージを仮に数値化してみましょう。

  • 【行動A】傘を持っていく場合雨が降ろうが晴れようが「荷物になって重い・邪魔」という一定のダメージを受けます。これを 100ダメージ とします。
  • 【行動B】傘を持っていかない場合
    • もし雨が降った場合:ずぶ濡れになる、あるいはコンビニでビニール傘を買う羽目になる。これは非常に不快なので 500ダメージ とします。
    • もし晴れた場合:手ぶらで超快適。0ダメージ です。

降水確率が何%なら持っていくべきか?

天気予報の降水確率を $p$ ($0 \leqq p \leqq 1$)とします。【行動B(持っていかない)】を選択したときの「ダメージの期待値」は以下のようになります。

$$500 \times p + 0 \times (1 – p) = 500p$$

ここで、行動A(常に100ダメージ)と行動Bのダメージが等しくなる分岐点(ボーダーライン)を計算します。

$$100 = 500p$$

$$\displaystyle p = \frac{100}{500} = \frac{1}{5} = 0.2$$

つまり、$p = 0.2$、すなわち降水確率が20%の時点で、数学的には「傘を持っていかない時のダメージ期待値」と「傘を持っていく煩わしさ」が同じになります

降水確率が20%を超えたら、おとなしく傘を持っていった方が、長期的に見て「損(不快感)をしない」という合理的な結論が出せるのです。

「降水確率30%で雨に降られて最悪だ!」と怒る人がいますが、数学的に見れば、30%の時点で傘を置いていったその人の「戦略ミス」と言えるわけですね。


全3回のまとめ:数学を武器に世の中を歩こう

全3回を通して、パチンコ、競馬、競輪、宝くじ、保険、そして傘の選択まで、様々な事象の「期待値」を見てきました。

ギャンブル期待値(目安)特徴
パチンコ約80〜85%ボーダー理論で勝機あり
競馬・競輪約75%知識と「歪み」で戦える
生命保険約40〜70%「負けてもいい」特殊な勝負
宝くじ約45〜50%数学的には最も過酷な夢

一つ、絶対に覆しようのない事実があります。それは「誰かが主催しているギャンブルは、必ず胴元(主催者)が勝つようにできている」ということです。自分が確実に損をするゲームをわざわざ開催するお人好しは、この世に存在しません。

今回取り上げた「生命保険」も同じです。保険会社には、複雑な確率計算を駆使して「会社が絶対に損をしない、かつ顧客が納得する絶妙な保険料」を弾き出す「アクチュアリー」という数理のプロフェッショナルたちがいます。

アクチュアリーは平均取得年数が約10年とも言われる超難関資格ですが、数学が得意な人にとっては引く手あまたの最強の職業です。進路に悩んでいる高校生は、ぜひ調べてみてください!
数学Aで習う『期待値』のプロが、年収1,000万円を超えることもある世界。数学を学ぶ価値は、こんなところにもあります。

世の中は、確率と期待値で満ち溢れています。

「これの期待値はどうなっているんだろう?」と立ち止まって考える数学的な視点を持つことは、誰かに搾取されないための、そして自分の人生を合理的に選択するための最大の武器になります。

3回にわたるシリーズにお付き合いいただき、ありがとうございました!これからも日常に潜む数学のトリビアを探究していきましょう。

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