この記事で分かること
$$\lim_{x\rightarrow0}\frac{\sin x}{x}=1の循環論法を回避した証明$$
0. はじめに
数学Ⅲの極限で必ず登場し、しばしば数学界隈で話題になる重要公式があります。
$$\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{\sin x}{x} = 1$$
実は、高校数学の教科書に載っているこの公式の証明は「循環論法(論理が堂々巡りすること)」になってしまっているという問題をご存じでしょうか。教科書では「扇形の面積」を用いて証明を行っていますが、ここには大きな落とし穴があります。
今回は、この循環論法をスパッと回避するスマートな証明方法をご紹介します。
1. 教科書の証明が「循環論法」になる理由

教科書の証明では、単位円の第1象限において次のような面積の大小関係を作ります。
(三角形OBCの面積) < (扇形OABの面積) < (三角形ODAの面積)
ここから「はさみうちの原理」を用いて極限を導くのですが、問題は「扇形の面積」をどうやって求めているかにあります。
扇形の面積の公式の土台には「円の面積(半径×半径× $\pi$)」があります。小学校で習うこの公式ですが、覚えなさいと言われて覚えてはいるものの、そこでは証明なんてやりません。
円の面積のきちんとした証明は実は高校の数学Ⅲでやります。
なので$\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{\sin x}{x} = 1$を証明するときに次のような論理のループに陥ってしまいます。
- 扇形の面積を使うためには、
- 積分をして円の面積を求める必要がある。
- その積分をするためには、三角関数の積分が必要になる。
- 三角関数の積分をするためには、三角関数の微分が必要になる。
- 三角関数の微分をするためには、$$\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{\sin x}{x} = 1$$の公式が必要になる。
- その公式を証明するために、扇形の面積を使う……。(1に戻る)
このように、証明したいはずの公式が、証明の前提条件の中に組み込まれてしまっています。これが循環論法と呼ばれるゆえんです。

循環論法を回避するアイディア
このループから抜け出すには、円(扇形)の面積に依存しないアプローチが必要です。
そこで今回は面積ではなく「弧の長さ」を用いて証明します。
円周の長さは「(直径)× $\pi$」として定義されているため、微分の公式などの制約を受けません。この性質を利用して、論理のループを回避していきましょう。
2. 循環論法を回避した証明(弧の長さバージョン)
証明の鍵となるのは、単位円上の図形において次の不等式を導くことです。

(直線 $BC$) < (弧 $AB$) ≦ (直線 $AC$)+(直線 $CB$)
左側の「直線 $BC$ < 弧 $AB$」は、垂線(直線)の最短性から明らかです。
問題は右側の「弧 $AB$ ≦ 直線 $AC$ + 直線 $CB$」です。図を見れば明らかにも思えますが、数学的にきちんと証明するために、次の定理を用意します。
定理:一方向に進む曲線の長さ
原点 $O$ から点 $(a, b)$ へ向かう曲線がある。
この曲線が $x$ 軸方向へも $y$ 軸方向へも常に非負(戻らない)であるとき、曲線の長さは $a+b$ 以下である。
【証明】
曲線を媒介変数 $t$ を用いて $x=f(t) , y=g(t) \quad (0 \leqq t \leqq 1)$ とします。
条件より、$0<t<1$ に対して $f'(t)\geqq 0 , g'(t)\geqq 0$ であり、
$f(0)=0 , f(1)=a , g(0)=0 , g(1)=b$ となります。
曲線の長さ $L$ は積分の公式より、次のように評価できます。
$$\begin{eqnarray} L &=& \int_{0}^{1}\sqrt{{f'(t)}^2+{g'(t)}^2}dt \\ &\leqq& \int_{0}^{1}\sqrt{{f'(t)}^2+2f'(t)g'(t)+{g'(t)}^2}dt \quad (\because f'(t)\geqq 0 , g'(t)\geqq 0) \\ &=& \int_{0}^{1}\sqrt{(f'(t)+g'(t))^2}dt \\ &=& \int_{0}^{1}|f'(t)+g'(t)|dt \\ &=& \int_{0}^{1}(f'(t)+g'(t))dt \quad (\because 絶対値の中身は非負) \\ &=& [f(t) + g(t)]_{0}^{1} \\ &=& (f(1)-f(0)) + (g(1)-g(0)) \\ &=& a+b \end{eqnarray}$$
これで、一方向にしか進まない曲線の長さは「横に進んだ長さと縦に進んだ長さの和」より短いことが証明できました。
はさみうちの原理による極限の導出
この定理を単位円に適用します。
半径1の円において、点 $A(1,0)$、点 $B(\cos\theta, \sin\theta)$ とし、点 $B$ から $x$ 軸に下ろした垂線の足を点 $C(\cos\theta, 0)$ とします。
すると、各部分の長さは次のようになります。
- 直線 $AC = 1 – \cos\theta$
- 直線 $BC = \sin\theta$
- 弧 $AB = \theta$ (弧度法の定義より)
先ほどの不等式「直線 $BC$ < 弧 $AB$ ≦ 直線 $AC$ + 直線 $CB$」にこれらを代入します。
ここで、$\theta \to +0$($0 < \theta < \frac{\pi}{2}$)のときを考えます。
$$\sin\theta < \theta \leqq (1-\cos\theta) + \sin\theta$$
この式の右辺を少し工夫して変形します。
$0 < \cos\theta < 1$ なので、$\cos\theta$ より $\cos^2\theta$ の方が小さくなります。
つまり、引く数を小さくすれば全体は大きくなるため、次の不等式が成り立ちます。
$$\sin\theta < \theta \leqq 1-\cos^{2}\theta+\sin\theta$$
$1-\cos^2\theta = \sin^2\theta$ なので、
$$\sin\theta < \theta \leqq \sin^{2}\theta+\sin\theta$$
今、$0 < \theta < \frac{\pi}{2}$ を考えているため $\sin\theta > 0$ です。すべての辺を $\sin\theta$ で割ります。
$$1 < \displaystyle\frac{\theta}{\sin\theta} \leqq \sin\theta+1$$
ここで $\theta \to +0$ の極限をとると、右辺の $\sin\theta+1$ は $1$ に近づきます。
したがって、はさみうちの原理により、
$$\lim_{\theta \to +0} \displaystyle\frac{\theta}{\sin\theta} = 1$$
$\theta \to -0$ のときも同様の議論で $1$ になるため、両側からの極限が一致し、
$$\lim_{\theta \to 0} \displaystyle\frac{\theta}{\sin\theta} = 1$$
が示されます。最後に逆数をとって変数を $x$ に戻せば、目的の公式の完成です!
$$\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{\sin x}{x} = 1$$

3. おわりに
いかがでしたでしょうか。
「面積を使ったらダメなら、弧の長さを使えばいいじゃない」という発想の転換から、厳密な証明を導くことができました。教科書がなぜあえて面積を使った直感的な証明を採用しているかについては様々な議論がありますが、ひとまずこれで「循環論法のモヤモヤ」からは解放されたはずです。
当たり前のように使っている公式の成り立ちを深く考えることも、数学の醍醐味の一つですね。
それでは、よい数学ライフを!


を組み合わせて、大きな絵(洞察)を完成させようとしているアニメ風のかわいい女の子.jpg)

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