「いろいろなギャンブルの期待値」シリーズ全3回の第1弾です!
以前の「ギャンブルの勝敗は「運」ではない? 数学で読み解く『期待値』の残酷な真実」という記事で、ギャンブルにおいて「期待値を知ることは、勝敗を分ける上で非常に重要である」というお話をしました。
高校生の皆さんはもちろんまだギャンブル(そもそも賭博は日本の法律で禁止されています)はできませんが、数学Aで習う「期待値」が社会でどう使われているのかを知るには最高の題材です。大人や中学生の方も、「数学のフィルター」を通すと世の中がどう見えるのか、ぜひ一緒に味わってみてください。
今回は全3回シリーズの第1回として、「パチンコ」と「競馬」にスポットを当て、その期待値と勝負のカラクリを数学的に解き明かしていきます!
そもそもギャンブルの期待値とは?
国語辞典によると、ギャンブルとは「結果が偶然に左右されるゲーム等に対して、金銭を賭ける行為」とされています。
数学的に言えば、「ある金額を支払い、不確実な確率変数に基づいてリターン(払い戻し)を得る取引」です。
ここで登場するのが「期待値」です。簡単に言えば、「1回勝負したとき、平均して理論上いくら戻ってくるか」を示す数値です。
1. パチンコの数学:「ボーダーライン」という絶対指標
パチンコの期待値計算には、「店全体の利益から逆算する方法」と「目の前の台の回転数から計算する方法」があります。プレイヤーが実践で使うのは圧倒的に後者です。

パチンコ台の仕組み
大前提として、同じ機種であれば大当たり確率はどの台でも全く同じです。また、大当たりした際に放出される玉数(リターン)も、多少の誤差はあれどほぼ一定です。
では、どこで勝敗の差が生まれるのでしょうか?
それは、「1000円あたり、何回大当たりの抽選を受けられるか」という点です。
期待値と「ボーダー」
パチンコは通常、1000円で250玉を借ります。この玉を打ち出し、盤面のチャッカー(スタート穴)に1玉入るごとに、1回の大当たり抽選が行われます。
台の釘の調整などにより、「1000円で15回しか抽選されない台」もあれば、「1000円で25回抽選される台」もあります。
ここで、「この回転数なら、理論上の収支がプラスマイナスゼロになる」という損益分岐点のことを「ボーダー(ボーダーライン)」と呼びます。
- ボーダーが20回の台の場合
- 1000円で25回まわる台: ボーダーを上回っているため、期待値はプラス(数学的に打ち続ければ勝てる)。
- 1000円で15回まわる台: ボーダーを下回っているため、期待値はマイナス(数学的に打ち続ければ必ず負ける)。
パチンコで長期的にお金を増やしている人は、運が良いわけではなく、単純に「期待値がプラス(ボーダー以上)の台を、ひたすら時間をかけて打ち続けている」という、非常に地道で数学的な作業をしているだけなのです。
2. 競馬の数学:本当のオッズ vs 人間の感覚
競馬には様々な賭け方(馬券)がありますが、ここでは最もシンプルな「単勝(1着になる馬を当てる)」を例に考えてみましょう。

競馬の絶対ルール「胴元が勝つシステム」
競馬において、馬券の売り上げからまず20〜30%程度を主催者(JRAなど)が手数料(控除率)として徴収します。そして、残りの金額を的中した人で分け合うという「パリミュチュエル方式」が採用されています。
$$\displaystyle \text{オッズ} = \frac{\text{手数料を引いた払い戻し総額}}{\text{その馬への投票金額}}$$
つまり、馬券を買う側全体で見れば、期待値は最初から「約0.75(マイナスサムゲーム)」に設定されているため、普通に買えば買うほどお金は減っていく数学的構造になっています。
「歪み」を見抜ければ勝てる?
では、競馬で勝つのは絶対に不可能なのでしょうか。ここで、1993年の有馬記念のオッズを見てみましょう。

100円賭けたとき、4トウカイテイオーが勝てば940円、1エルカーサリバーなら7320円になります。
【1993年 有馬記念 単勝オッズ例】
- トウカイテイオー:9.4倍
- エルカーサリバー:73.2倍
オッズが高い(配当が大きい)ということは、それだけ「勝つ確率が低い」と皆が予想しているということです。
ここで最も重要な数学的思考が登場します。
このオッズは、馬の実際の強さで決まっているわけではありません。「馬券を買う人間たちが、どの馬が勝つと思ったか(人気)」によって決まっているのです。これを人間が感覚で勝つと予想するので「感覚的オッズ」と呼びましょう。
もし、様々なデータ(血統、馬場状態、過去のタイムなど)から神様が計算した「本当の勝率(客観的確率)」が分かったとします。
- ある馬の本当の勝率が $10\%$ だとします。
- しかし、人間たちが過小評価しており、オッズが $15.0$ 倍ついていたとします。
- この馬券を100円で買った場合の期待値は:$$\displaystyle 100 \times 15.0 \times 0.1 = 150$$期待値は「150円」となり、100円を上回ります。
つまり、「世間の過小評価(本当の勝率 > 世間の予想勝率)」というバグ(歪み)を見つけ出し、そこに賭け続けることができれば、数学的には勝つことができるのです。
しかし、無数の不確定要素が絡む競馬において「本当の勝率」を人間が正確に計算することはほぼ不可能です。世の中には「絶対に当たる予想」を謳う人もいますが、数学的に考えればそんな魔法が存在しないことはお分かりいただけるでしょう。
今回のまとめ
パチンコも競馬も、数学の「期待値」というレンズを通すと、ただの運試しではなく「確率と期待値のゲーム」であることが浮き彫りになります。
ギャンブルで勝ち続ける(期待値をプラスにする)には、ボーダーを超える台を探し歩く労力や、世間のオッズの歪みを見抜く膨大なデータ分析など、並大抵ではない「努力」が必要です。そこまでして得られる報酬が見合っているのかどうかは、人それぞれでしょう。
「数学がわかればギャンブルに勝てる」というほど甘い世界ではありませんが、「数学を知らないと、確実に搾取される」のがギャンブルの世界です。
次回も引き続き、別のギャンブルを取り上げて「期待値」の観点から切り込んでいきたいと思います。お楽しみに!






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