ハノイの塔の最小移動回数を求める|ルールから漸化式の作成・解き方まで解説

数学ⅡB

1.ハノイの塔とは?ゲームの基本ルール

「ハノイの塔」は、19世紀にフランスの数学者エドゥアール・リュカによって考案されたパズルゲームです。数学の「漸化式(ぜんかしき)」を学ぶ際の最高の実践教材として、多くの教科書や入試問題で取り上げられています。

まずは基本ルールをおさらいしましょう。

📜 ハノイの塔のルール

  1. 3本の杭(A, B, C)と、大きさがすべて異なる $n$ 枚の円盤がある。
  2. 最初はすべての円盤が大きさ順に杭Aに重なっている(下が大きく、上が小さい)。
  3. 1回の移動で、いずれかの杭の一番上にある円盤を1枚だけ別の杭に移動できる。
  4. 小さな円盤の上に大きな円盤を乗せてはならない。
  5. すべての円盤を杭Aから別の杭(例:杭C)へ移動させたら完成!

枚数 $n$ が少ないうちは手作業で解けますが、枚数が増えると一気に難易度が上がります。

では、$n$ 枚の円盤を移動させるための「最小移動回数」は、どのように計算すればよいのでしょうか?

2.枚数を増やして実験!パターンの発見

数学の基本は「小さな数字で実験すること」です。円盤の枚数 $n$ を $1, 2, 3$ と増やしたときの最小移動回数を観察してみましょう。

  • $n = 1$ のとき:杭Aから杭Cへ1枚動かすだけ。 $\rightarrow$ 1回
  • $n = 2$ のとき:
    1. 上の小円盤を杭Bへ(1回)
    2. 下の大円盤を杭Cへ(1回)
    3. 杭Bの小円盤を杭Cへ(1回) $\rightarrow$ 3回
  • $n = 3$ のとき:
    1. 上の2枚を杭Bへ移動させる(3回)
    2. 一番下の最大円盤を杭Cへ移動させる(1回)
    3. 杭Bにある2枚を杭Cへ移動させる(3回) $\rightarrow$ 7回

回数の並びを見ると、$1, 3, 7, 15, 31 \dots$ と増えていきます。

ここで「おや?」と思った方は鋭いです! すべて $2^n – 1$ という形をしていますね。

では、なぜこの回数になるのか、漸化式を使って論理的に解明していきましょう。

3.ハノイの塔の漸化式を立てる(立式のロジック)

$n$ 枚の円盤を移動させる最小移動回数を $a_n$ と置きます。

$n$ 枚の円盤を杭Aから杭Cへ移動させる手順は、どんなに枚数が増えても次の3つのステップに集約されます。

🔄 移動の3ステップ

  1. ステップ1: 上の $(n-1)$ 枚の円盤を、杭Aから作業用の杭Bへ移動させる。
    • これに必要な回数は $a_{n-1}$ 回
  2. ステップ2: 杭Aに残った「一番大きな1枚」を、目的の杭Cへ移動させる。
    • これに必要な回数は 1回
  3. ステップ3: 杭Bに避難させていた $(n-1)$ 枚の円盤を、目的の杭Cへ移動させる。
    • これに必要な回数は $a_{n-1}$ 回

これらをすべて足し合わせると、 $a_n$ と $a_{n-1}$ の関係式(漸化式)が完成します!

$$\displaystyle a_n = a_{n-1} + 1 + a_{n-1}$$

整理すると、以下の有名な漸化式が得られます。

$$\displaystyle a_n = 2 a_{n-1} + 1 \quad (a_1 = 1)$$

「$n$ 枚動かすには、$(n-1)$ 枚動かす工程が2回と、一番大きい1枚を動かす1回が必要」という構造が見事に式に現れていますね!

4.漸化式を解く(一般項の導出)

立てた漸化式 $a_n = 2 a_{n-1} + 1$ を解いて、一般項 $a_n$ を求めましょう。

これは「$a_{n+1} = p a_n + q$ 型」の基本形漸化式です。特性方程式を用いて変形します。

💡 特性方程式による変形

特性方程式 $\alpha = 2 \alpha + 1$ を解くと、 $\alpha = -1$ となります。

両辺に $1$ を加えると、次のように変形できます。

$$\displaystyle a_n + 1 = 2 (a_{n-1} + 1)$$

ここで、$b_n = a_n + 1$ と置くと、

  • 初項: $b_1 = a_1 + 1 = 1 + 1 = 2$
  • 公比: $2$

となり、数列 $\{b_n\}$ は初項 2、公比 2 の等比数列であることが分かります。

数列 $\{b_n\}$ の一般項は、

$$\displaystyle b_n = 2 \times 2^{n-1} = 2^n$$

$b_n = a_n + 1$ であったから、元に戻すと、

$$\displaystyle a_n + 1 = 2^n \implies a_n = 2^n – 1$$

見事、実験で予想した通り最小移動回数の公式 $a_n = 2^n – 1$ が導出できました!

5.【コラム】64枚の円盤を移動させると世界が滅ぶ!?

ハノイの塔には、こんな有名な伝説(インドの神話風フレーバー)が添えられています。

「インドのシュリーランガムにある寺院に、64枚の黄金の円盤と3本のダイヤモンドの針がある。僧侶たちが夜も昼も休みなく、ルールに従って円盤を移し替えている。64枚すべての移し替えが終わったとき、世界は終焉を迎える……

果たして、世界滅亡までどれくらいの時間がかかるのでしょうか?

公式 $a_n = 2^n – 1$ に $n = 64$ を代入して計算してみましょう。

移動回数は $a_{64} = 2^{64} – 1$ 回です。

$2^{64}$の概算テクニック

$2^{10} = 1024 \approx 10^3$ (約1000)という近似を利用して概算してみます。$$\displaystyle 2^{64} = 2^4 \times (2^{10})^6 \approx 16 \times (10^3)^6 = 16 \times 10^{18} = 1.6 \times 10^{19}$$つまり、およそ $1.6 \times 10^{19}$ 回(約1600京回) の移動が必要です。

⏳ 1秒に1枚動かしたときの時間計算

僧侶たちが不眠不休で「1秒間に1枚」のペースで動き続けると仮定します。

  • 1年間の秒数: $60\text{秒} \times 60\text{分} \times 24\text{時間} \times 365\text{日} \approx 3.15 \times 10^7 \text{秒}$

総移動回数($1.6 \times 10^{19}$ 秒)を1年の秒数で割ると、

$$\displaystyle \frac{1.6 \times 10^{19}}{3.15 \times 10^7} \approx 5.08 \times 10^{11} \text{年}$$

なんと、約 5000 億年 かかります!

※正確な $2^{64}-1 = 18,446,744,073,709,551,615$ 回で厳密に計算しても約 5845 億年となります。

宇宙の現在の年齢が約 138 億年と言われていますから、宇宙の寿命よりも遥かに長い時間です。これなら当分、世界が滅びる心配はなさそうですね。

6.まとめ

今回のポイントを整理しましょう。

  1. 基本ルール: 小さい円盤の上に大きな円盤は乗せられない。
  2. 漸化式の立式: $n$ 枚の移動は「$(n-1)$ 枚を避難 $\rightarrow$ 1枚移動 $\rightarrow$ $(n-1)$ 枚を重ねる」の3ステップで $a_n = 2 a_{n-1} + 1$ と表せる。
  3. 一般項: 特性方程式を用いて解くと $a_n = 2^n – 1$ となる。
  4. 指数の凄まじさ: $n=64$ になると、移動には数千億年という天文学的数字になる。

一見複雑に見えるパズルも、「手前の状態($n-1$)を利用して次の状態($n$)を表す」という漸化式の考え方を使えば、とてもスマートに解き明かすことができます。

高校数学の漸化式で迷ったときは、ぜひこの「ハノイの塔」の3ステップを思い出してみてくださいね!

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