トランプに触ってないのに確率が変わる?大学入試の「条件付き確率」を公式なしで秒殺する神ワザ

数学ⅠA

「最初に引いたカードがハートである確率は $\displaystyle \frac{1}{4}$ だから、答えは $\displaystyle \frac{1}{4}$ でしょ?」

……惜しい!その直感、90点くらいは正しい。でも今回の問題では、その素晴らしい直感を「あと一歩」だけアップデートする必要がある。

今回は、大学入試でも実際によく出題される「条件付き確率」の有名問題を題材に、「なぜ触ってもいないカードの確率が変わるのか」を直感から丁寧に解説していこう。数学的な厳密さよりも、まずはあなたの脳が「あ、そういうことか!」と100%腑に落ちることを最優先に解説していく。

1.今回の挑戦状(問題)

【問題】

ジョーカーを除く52枚のトランプがある。ここから1枚を無作為に選び、マークや数字を確認せずに裏のまま机に置く。

次に、残りの51枚から無作為に3枚を選んだところ、3枚とも「ハート」だった。

このとき、最初に机の上に置かれたカードが「ハート」である確率を求めよ。

さあ、あなたはどちらの味方だろうか。

  • 「最初に引いた時点でハートの確率は $\displaystyle \frac{1}{4}$。その後カードに触れてもいないんだから、答えは $\displaystyle \frac{1}{4}$ でしょ」派
  • 「後から引いた3枚の情報があるんだから確率が変わるはず、答えは $\displaystyle \frac{10}{49}$」派

実は「プロの数学者」すら大論争を起こした曰く付きのテーマ

正解を発表する前に、ちょっとした受験界の裏話を紹介しよう。

実はこの問題、昭和の時代に『全国大学入試問題正解』(いわゆる赤本などのベースになる過去問集)の解答を執筆したプロの数学教師(予備校講師)ですら、直感に騙されて「答えは $\displaystyle \frac{1}{4}$ である」と堂々と誤った解説を掲載してしまったという、曰く付きの伝説のテーマなのだ。

「最初に引いた過去の事実は変わらない」という直感は、それほどまでに強力で、プロの頭脳すら狂わせる恐ろしい罠を持っている。

では、プロすらハメられたこの問題の、真の正解を発表しよう。

正解は、

$$\displaystyle \frac{10}{49}$$

だ。

「でも、机の上のカードには指一本触れていないのに、なんで後からの結果で過去の確率が変わるの?」——そのモヤモヤした疑問こそが、条件付き確率の本質に迫る最高の入口だ。

2.なぜ $\displaystyle \frac{1}{4}$ ではないのか?を直感で理解する

$\displaystyle \frac{1}{4}$ 派の言い分は実によく分かる。「過去に起きた事実は変わらないし、物理的にカードが書き換わったわけじゃない」と思うからだ。

では、極端な例として「3枚ではなく13枚引いた場合」を想像してみてほしい。

🤔 もし、後から引いたのが「13枚」だったら?

残り51枚から13枚をバッと引いたところ、なんと13枚全部がハートだったとする。

このとき、机の上に裏返してある最初の1枚は、ハートだろうか?

……そう、最初に引いたカードは絶対にハートではない。

トランプにハートは全部で13枚しか存在しない。その13枚すべてが今、目の前に見えているのだ。ということは、机の上のカードがハートである確率は確実に $0$ (あり得ない)になる。

でも、この状況でも「最初にカードを引いた瞬間」にタイムスリップすれば、ハートを引く確率は確かに $\displaystyle \frac{1}{4}$ だったはず。なのに、後からの結果を見た瞬間に答えは $0$ に変わる。

ここで脳のスイッチを切り替えよう。

後から得た新しい情報が、過去の確率を更新(上書き)する

これこそが、条件付き確率の核心だ。物理的にカードのマークが変わったのではない。変わったのは、私たちの「知識(情報)の状態」なのだ。

3.解き方の神ワザ:「情報がないなら、後から引いたのと同じ」

この問題を一瞬で解くカギは、「時間の流れ」をひっくり返すことだ。

最初に引いて机に置いた1枚は、マークが分かっていない(=私たちにとって情報ゼロ)。このように情報が一切ないカードは、「まだ引いていない(山札の底に眠っている)」のと実質的に同じと考えてしまって構わない。

つまり、こういう「発想の転換」を行う。

【タイムリバース(発想の転換)】

  • 元の操作:「52枚から1枚引いて置く」 $\rightarrow$ 「残り51枚から3枚引く」
    (順番を入れ替える!)
  • 新しい操作:「52枚から先に3枚引く」 $\rightarrow$ 「残りの49枚から1枚引く」

「現在の結果によって過去の確率が変化する」という捉え方は、一見すると直感に反して奇妙に思えるかもしれない。しかし、この「順番の入れ替え」を行っても、数学的に求めたい確率は完全に一致するのだ。

では、このリバースされた世界で問題を読み替えてみよう。

【読み替えた問題】

ハートが13枚含まれる52枚のトランプから、先にハート3枚を引っこ抜いた。

残った49枚の山札から1枚を引くとき、それがハートである確率は?

こうなると、ただの確率計算だ。山札の残り枚数の内訳を数えてみよう。

マーク最初の枚数先に3枚(♥)引いた後
♥ ハート13枚10枚 (3枚減った)
♠ スペード13枚13枚 (変わらず)
♦ ダイヤ13枚13枚 (変わらず)
♣ クローバー13枚13枚 (変わらず)
合計52枚49枚

ご覧の通り、残された49枚の山札の中に、ハートは10枚しか残っていない。

したがって、ここからハートを引く確率は一発で次のようになる。

$$ \text{求める確率} = \displaystyle \frac{10}{49} $$

公式なんて1文字も使わずに、あっさりと正解にたどり着いてしまった。

4.条件付き確率の公式でも答えを合わせてみよう

「直感的な裏ワザは分かった。でも、テストや記述模試のために、ちゃんと高校数学の公式でも確認しておきたい!」という人のために、正規のルートでも計算してみよう。

条件付き確率の定義式はこうだった。

📐 条件付き確率の公式

$$P(A|B) = \displaystyle \frac{P(A \cap B)}{P(B)}$$

今回の問題にこの公式のパーツを当てはめてみる。

  • 事象 $A$: 最初に引いた(机の上の)カードがハート
  • 事象 $B$: 後から引いた3枚がすべてハート

分母と分子の確率をそれぞれ計算していこう。

① 分母:$P(B)$(とにかく後からの3枚がハートになる確率)

これには「最初がハートで、次もハート3枚」の場合と、「最初がハート以外で、次がハート3枚」の2つの場合がある。

  • 最初のカードが♥の場合:$$\displaystyle \frac{13}{52} \times \frac{12 \times 11 \times 10}{51 \times 50 \times 49}$$
  • 最初のカードが♥以外の場合:$$\displaystyle \frac{39}{52} \times \frac{13 \times 12 \times 11}{51 \times 50 \times 49}$$

この2つを足し算したものが分母 $P(B)$ になる。

$$P(B) = \displaystyle \frac{13 \times 12 \times 11 \times 10 + 39 \times 13 \times 12 \times 11}{52 \times 51 \times 50 \times 49}$$

② 分子:$P(A \cap B)$(最初もハート、かつ、次もハート3枚である確率)

これは上の「ルート1」そのものだ。

$$P(A \cap B) = \displaystyle \frac{13}{52} \times \frac{12 \times 11 \times 10}{51 \times 50 \times 49} = \frac{13 \times 12 \times 11 \times 10}{52 \times 51 \times 50 \times 49}$$

③ 公式にドッキングする

分数の中に分数が乗っかるカオスな式になるが、幸いにも分母の「$52 \times 51 \times 50 \times 49$」は、分子と分母で綺麗に約分されて跡形もなく消え去ってくれる。

$$P(A|B) = \displaystyle \frac{13 \times 12 \times 11 \times 10}{(13 \times 12 \times 11 \times 10) + (39 \times 13 \times 12 \times 11)}$$

さらに、すべての項に含まれている「$13 \times 12 \times 11$」で全体を割ってあげると、驚くほどスッキリした式が残る。

$$P(A|B) = \displaystyle \frac{10}{10 + 39} = \frac{10}{49}$$

公式を使っても、全く同じ答えになった!

いかに最初の「時間を巻き戻す直感の解き方」が、条件付き確率の本質を突いた鮮やかな近道(チートワザ)だったかが分かってもらえたと思う。

5.確率は「物理的な事実」ではなく「情報の状態」で変わる

今回の問題のメッセージは、「情報を得ることで、過去の不確かさが上書きされる」という面白さにある。

机の上のカードに触れていないのに確率が変わる――これは超能力でもなんでもない。

変化しているのは、カードではなく「私たちの知識の状態」だ。

この考え方は、実は日常のあちこちに潜んでいる

例えば、朝の天気予報で「今日の降水確率は $60\%$」と言っていたのに、昼になって最新の雨雲レーダーのデータが入った結果、「午後の降水確率は $80\%$」に更新される。これも「新しい情報を得て、過去の確率を上書きしている」という点で、全く同じ仕組みだ。

医療の現場でも、人間ドックの検査結果(新しい情報)が出るたびに、「あなたが特定の病気である確率」をどんどん更新していく。これらすべてが、条件付き確率の考え方そのものなのだ。

6.今回のまとめ

  • 「〜のとき」があれば条件付き確率!問題文に条件が与えられたら、全体の分母が変わる合図。
  • 情報がないカードは「まだ引いていない」と同じ!マークが分からない1枚は、「後から引く」と時間を入れ替えて考えてOK。
  • 確率は「知識の状態」で決まる!物理的な変化ではなく、新しい情報を手に入れるたびに確率は常に更新されていく。

条件付き確率は、共通テストや二次試験でも非常に差がつきやすい大物単元だ。
「なんとなく公式のアルファベットに当てはめる」のではなく、「情報が確率を上書きしていくんだ」という本質を掴んでおくと、初見のひねった問題に出会っても、迷わずに一瞬で解くルートが見えてくるようになるぞ。

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