数学IIの「図形と方程式」の単元で、多くの高校生が一度は絶望する公式があります。
それが 点と直線の距離の公式 です。
ルートがあり、絶対値があり、文字もたくさん……。
見た目がとても複雑なので、「覚えたくない」「使わずに解けないかな」と思ってしまう生徒が後を絶ちません。
しかし、この公式は数学II・Bを乗り切るための 最強の時短ツール なのです。
今回は、現役教師の視点から、この公式を絶対に覚えるべき理由と、
テストで間違えないための暗記・代入のコツを解説します。
1. 点と直線の距離の公式とは?
まずは公式の形を確認しましょう。
座標平面上の点 $P(x_1, y_1)$ と、直線 $l: ax + by + c = 0$ の間の距離 $d$ は、
$$\displaystyle d = \frac{|ax_1 + by_1 + c|}{\sqrt{a^2 + b^2}}$$
である。

この $d$ は、点から直線に向かって垂直に下ろした線の長さ(最短距離)を表しています。
2. なぜこの公式が必要なのか?(使わないと地獄を見ます)
「こんな複雑な公式、本当に必要なの?」と思うかもしれません。
では、もしこの公式を知らずに、自力で点と直線の距離を求めようとするとどうなるか。
その先に待っている 終わりの見えない計算の迷路をシミュレーションしてみましょう。
ステップ1:垂直な直線の式を立てる(すでに面倒)
まず、点 $P(x_1, y_1)$ を通り、元の直線 $l$ に垂直な直線 $m$ の方程式を立てる必要があります。
元の直線の傾きを求め、垂直条件(傾きの積が $- \ 1$)から新しい直線の傾きを出し、
さらに点 $P$ を通ることから直線の式を導き出す……。
この時点で、傾きが分数だったりすると、符号のミスや計算間違いをするリスクがつきまといます。
ステップ2:交点の座標を連立方程式で出す(ここが最大の地獄)
次に、元の直線 $l$ と、今求めた垂直な直線 $m$ の交点(垂線の足)の座標を求めます。
2つの直線の方程式を連立方程式として解くわけですが、これが計算の泥沼です。
文字や係数が複雑になると、出てくる座標が「$\displaystyle \frac{23}{17}$」のような
複雑な分数になることは日常茶飯事。
分数の計算をしながら、移項し、代入し、慎重に $x$ と $y$ の値を出す……。
ここだけで試験時間の多くを使い果たし、集中力は限界を迎えます。
ステップ3:2点間の距離を計算する(トドメのルート計算)
やっとの思いで交点の座標を出しても、まだ終わりではありません。
最後に、最初の点 $P$ と、ステップ2で必死に求めた交点との距離を「2点間の距離の公式」で計算します。
$$\displaystyle d = \sqrt{(x_1 \ – \ x_2)^2 + (y_1 \ – \ y_2)^2}$$
想像してください。先ほど求めた 複雑な分数同士の引き算 をし、それを2乗し、通分して足し合わせ、最後に ルート を外す作業を。
もしステップ1や2のどこかで、プラスとマイナスを一つでも書き間違えていたら、この膨大な計算の努力はすべて水の泡。最初からやり直しという絶望が待っています。
👤 【現役数学教師の視点:計算のスタミナを温存せよ】
いかがでしょうか。
たった1つの距離を出すために、これだけの「計算の壁」を乗り越えなければなりません。
実際に授業で公式を使わずに解かせてみると、たどり着ける生徒はクラスに数人、しかも10分以上かかってボロボロの状態になります。
試験において、計算ミスは単なる不注意ではなく「戦略ミス」です。
この点と直線の距離の公式は、これら 3つの地獄のステップをすべて飛び越えて、
一気に答えにワープさせてくれる魔法のチケットなのです。
数学において「公式を覚える」のは、苦労を避けるためではなく、
もっと本質的な問題(図形の性質や条件の考察など)に頭を使うための武器を手に入れる行為だと思ってください。
3. 絶対に間違えない!暗記と代入の3つのコツ
公式のメリットがわかったところで、テストでミスをしないための覚え方と使い方のコツを紹介します。
コツ①:直線の式は必ず「= 0」の形にする
公式を使うための絶対条件です。
直線が $y = mx + n$ の形になっている場合は、必ずすべての項を片側に寄せて $ax + by + c = 0$ の形に直してから使いましょう。

コツ②:分母は「直線の $x, y$ の係数」の三平方
分母の $\sqrt{a^2 + b^2}$ に入るのは、直線の式にある $x$ と $y$ の前についている数字です。
点の座標と混同しないように、「直線の係数を2乗して足してルート」とリズムで覚えましょう。

コツ③:分子は「直線の式に点の座標をそのまま代入」+絶対値
分子の $|ax_1 + by_1 + c|$ は難しく見えますが、実は 直線の式の $x$ と $y$ に、点の座標をポンッと代入しただけ です。距離にマイナスはないので、最後に絶対値記号をつけてプラスにするのを忘れないようにしましょう。

4. 実践!公式を使って距離を求めてみよう
実際に問題を解いて、使い勝手を確認してみましょう。
【例題】
点 $(2, \ – \ 1)$ と、直線 $3x \ – \ 4y + 2 = 0$ の距離 $d$ を求めよ。
【解説】
直線の式はすでに $= 0$ の形になっているので、そのまま公式に当てはめます。
・分母は、直線の係数 $3$ と $-4$ を使います。
・分子は、直線の式に $x = 2$ と $y = -1$ を代入して絶対値をつけます。
$$\displaystyle d = \frac{|3 \times 2 – 4 \times (-1) + 2|}{\sqrt{3^2 + (-4)^2}}$$
分子と分母をそれぞれ計算していきます。
$$\displaystyle d = \frac{|6 + 4 + 2|}{\sqrt{9 + 16}}$$
$$\displaystyle d = \frac{|12|}{\sqrt{25}}$$
絶対値 $|12|$ はそのまま $12$ になり、$\sqrt{25}$ は $5$ になります。
$$\displaystyle d = \frac{12}{5}$$
たったこれだけの計算で、点と直線の距離を求めることができました!
👤 【現役数学教師の視点:この公式が輝く最大の舞台】
授業では、この公式を教えた直後に 円と直線の位置関係(接線) の問題を解かせています。
たとえば、「直線が円に接するときの条件を求めよ」という問題。
これを、円の式と直線の式を連立して、2次方程式を作り、判別式 $D = 0$ を計算する……という手順で解く生徒がいます。決して間違いではありませんが、計算が非常に煩雑になります。
ここで 点と直線の距離の公式 を使い、「円の中心から直線までの距離 $d$ が、円の半径 $r$ と等しくなる($d = r$)」というアプローチをとると、計算量が半分以下に激減します。
この公式は、単に距離を求めるためだけでなく、円の接線問題や、三角形の面積を求める問題(底辺と高さの算出)など、様々な場面で計算をショートカットさせてくれる必須アイテムなのです。
【比較用:公式を使わずに自力で解く場合】
(※どれほど手間がかかり、ミスを誘発するかを確認してください)
ステップ1:垂直な直線の式を立てる
直線 $3x \ – \ 4y + 2 = 0$ の傾きは $\displaystyle \frac{3}{4}$ です。
これに垂直な直線の傾きを $m$ とすると、$\displaystyle \frac{3}{4} \times m = \ – \ 1$ より、傾きは $m = \displaystyle \ – \ \frac{4}{3}$ とわかります。
点 $(2, \ – \ 1)$ を通り、傾きが $\displaystyle \ – \ \frac{4}{3}$ の直線の式を立てます。
$\displaystyle y \ – \ ( \ – \ 1 ) = \ – \ \frac{4}{3} ( x \ – \ 2 )$
$\displaystyle y + 1 = \ – \ \frac{4}{3} x + \frac{8}{3}$
これを整理して、$\displaystyle 4x + 3y \ – \ 5 = 0$ ……(1)
ステップ2:連立方程式で交点(垂線の足)を出す
元の直線 $3x \ – \ 4y + 2 = 0$ ……(2) と、今作った (1) の交点を求めます。
$$\displaystyle \begin{cases} 4x + 3y = 5 \\ 3x – 4y = – 2 \end{cases}$$
上の式を 4倍、下の式を 3倍して $y$ を消去します。
$$\displaystyle \begin{cases} 16x + 12y = 20 \\ 9x – 12y = – 6 \end{cases}$$
足し合わせると、$\displaystyle 25x = 14$ となり、$\displaystyle x = \frac{14}{25}$
これを代入して $y$ を出すと、$\displaystyle y = \frac{23}{25}$
交点の座標は $\displaystyle ( \frac{14}{25}, \ \frac{23}{25} )$ です。すでに計算が嫌になりますね。
ステップ3:2点間の距離を計算する
点 $(2, \ – \ 1)$ と 交点 $\displaystyle ( \frac{14}{25}, \ \frac{23}{25} )$ の距離 $d$ を求めます。
$$\displaystyle d = \sqrt{ ( 2 \ – \ \frac{14}{25} )^2 + ( \ – \ 1 \ – \ \frac{23}{25} )^2 }$$
$$\displaystyle d = \sqrt{ ( \frac{50 \ – \ 14}{25} )^2 + ( \frac{ \ – \ 25 \ – \ 23}{25} )^2 }$$
$$\displaystyle d = \sqrt{ ( \frac{36}{25} )^2 + ( \frac{ \ – \ 48}{25} )^2 }$$
$$\displaystyle d = \sqrt{ \frac{1296}{625} + \frac{2304}{625} }$$
$$\displaystyle d = \sqrt{ \frac{3600}{625} }$$
これを整理して、ようやく $\displaystyle d = \frac{60}{25} = \frac{12}{5}$ と答えが出ます。
💡 先生のまとめの一言
いかがでしたか?
公式を使えばたった3行で終わる計算が、自力で解こうとするとこれほど複雑な分数の計算に化けてしまいます。
試験中にこの分数の迷路に迷い込んでしまったら、他の問題を解く時間はなくなってしまうでしょう。
公式は暗記の負担を増やすものではなく、あなたをこうした計算の地獄から救い出すための道具なのです。
まとめ:逃げずに使い倒して味方にしよう
・ 点と直線の距離の公式は、面倒な計算をスキップする最強の時短ツール。
・ 使う前は必ず直線の式を $ax + by + c = 0$ の形にする。
・ 分母は直線の係数、分子は直線の式に点を代入して絶対値。
最初は形に圧倒されるかもしれませんが、5回、10回と使っているうちに、手が勝手に動くようになります。図形問題の地獄を見ないために、ぜひこの公式を使い倒して自分の味方にしてくださいね。


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