ギャンブルの勝敗は「運」ではない? 数学で読み解く『期待値』の残酷な真実

数学ⅠA

1.【導入】なぜ、人は負けると分かっていても挑むのか

「パチンコで今月はプラスだ」「宝くじで一発当てて人生変えたい」

そんな言葉を耳にすることがあります。もしかしたら、あなた自身もそう思ったことがあるかもしれません。

しかし、数学のレンズを通してギャンブルを見ると、そこには「絶対に胴元(主催者)が勝つ」という冷徹なシステムが浮かび上がります。

今回は、感情やオカルトを一切排除し、「期待値」という数学の武器を使って、ギャンブルの正体を暴いていきます。これを読めば、あなたの財布を守るための最強の盾が手に入るはずです。

💡【身近な事例】「今週は勝てる」というギャンブルの罠

 私の友人にパチンコが大好きな人がいます。彼は「先週は負けているから、今週は勝てると思うんだよね!」と言っていました。この言葉を聞いたとき、私は数学的に見て、それは非常に危険な考え方だと感じました。また、私の父は毎年のように年末ジャンボ宝くじを家族に内緒で買っています。結果を聞いて残念そうな顔をしている父を横目に、「期待値を知っていれば、冷静になれるのに」と私は思ってしまいます。この記事は、大切な人や、つい熱くなってしまう自分自身のために、数学の冷徹な事実を伝えるために書きました。


2. 学校では教えてくれなかった?「期待値」の空白期間

そもそも「期待値」とは何か。簡単に言えば、「そのギャンブルを繰り返した時、1回あたり平均いくら戻ってくるか」という数値です。

実は、この重要な概念は、学習指導要領の改訂により、ある時期の高校数学から姿を消していました(※近年の改訂で「数学A」や「数学B」の確率分布として復活しています)。

そのため、今の20代の方の中には、「期待値という言葉は知っているけれど、計算したことはない」または「期待値という言葉をそもそも知らない」という人が意外と多いのです。

投資や保険、そしてギャンブル。人生の重要な選択には常にこの「期待値」が関わっているのに、それを学ばずに大人になるのは、地図を持たずに航海に出るようなものかもしれません。

💡【元塾講師の体験】教育課程から消えた『期待値』への不安

 私が塾講師をしていた時、高校生に「期待値を勉強していない」と言われ、最初は大変驚きました。自分が学んだ時には必須だったからです。しかし、当時の指導要領から本当に外れていたと知り、これを学ばずして社会に出る生徒たちの将来に、強い不安を覚えました。 そこで私は、教科書とは関係なく「期待値」を簡単に教えました。投資やギャンブル、保険など、人生の重要な選択に不可欠な知識だからこそ、生徒たちには伝えなければならないと感じたのです。


3. 【実践】そのギャンブル、いくら損する?

では、具体的な数字を使って期待値を計算してみましょう。

言葉で説明するより、計算した方が早いです。

例題:サイコロの賭け

  • 参加費:300円
  • ルール:サイコロを1回振り、出た目に応じて賞金がもらえる。
    • 1〜5が出た場合:0円(ハズレ)
    • 6が出た場合:1500円(当たり)

一見すると、当たれば1500円もらえるので、300円なんて安いものだと感じるかもしれません。しかし、計算してみましょう。

期待値の計算式:

$$(\text{勝つ確率} \times \text{賞金}) + (\text{負ける確率} \times \text{賞金}) = \text{見込み額}$$

  • 1500円もらえる確率は $\frac{1}{6}$
  • 0円になる確率は $\frac{5}{6}$

$$1500 \times \frac{1}{6} + 0 \times \frac{5}{6} = 250 \text{(円)}$$

この計算が示すのは、「このゲームに参加すると、平均して250円が戻ってくる」ということです。

あれ?参加費はいくらでしたっけ?

そう、300円です。

300円払って、250円しか戻ってこない商品を買っているのと同じです。つまり、1回遊ぶたびに、理論上50円ずつ財布からお金が消えていく計算になります。

$$250 \text{(リターン)} – 300 \text{(コスト)} = -50 \text{(円)}$$

これが、胴元が儲かる「控除率(テラ銭)」の正体です。


4. 現実のギャンブルの「還元率」はもっと残酷

サイコロの例はまだ可愛いものです。現実のギャンブルの期待値(還元率)を見てみましょう。
一般的に言われている数値は以下の通りです。

ギャンブルの種類還元率(期待値の割合)1万円使った時の残り
パチンコ・スロット約80〜85%8,500円
競馬・競艇約70〜75%7,500円
宝くじ約45%4,500円

特に宝くじの還元率の低さは衝撃的です。1万円分買った瞬間、数学的にはその価値が4,500円になっているのです。

「夢を買う」と言いますが、その夢の手数料はあまりにも高額です。

💡【数字の衝撃】宝くじの還元率に絶句した時の感情

 私はこの期待値(還元率)の低さを知った時、正直に言って絶句しました。 幼い頃、祖父母から「たからくじはタヌキのくじ(たを抜くとからくじになる)」と聞かされていましたが、まさかここまで悪いとは。 還元率が80%台のパチンコやスロットがマシに見えてしまうほどです。宝くじの収益金の一部が公共事業に使われていることを知り、購入者を「税金をさらに納めてくれる素晴らしい人」と解釈することもできますが、寄付をするなら、私はどこに寄付するか自分で選んで支援したい、というのが数学を知ってしまった私の正直な気持ちです。


5. なぜ「勝っている人」がいるように見えるのか?(大数の法則)

ここで反論があるかもしれません。

「でも、実際に勝っている人もいるじゃないか!」

「俺は昨日、パチンコで5万円勝ったぞ!」

その通りです。期待値はあくまで「平均」です。1回や2回の勝負では、運良く大きく勝つこともあれば、負けることもあります。これを統計学では「分散(バラつき)」と呼びます。

しかし、回数を重ねれば重ねるほど、結果は必ず期待値に近づいていきます。これを「大数の法則」と言います。

  • 1回目: ビギナーズラックで大勝ちするかもしれない(グラフが上に跳ねる)。
  • 100回目: 勝ち負けを繰り返し、徐々にマイナスへ。
  • 10000回目: 完全に計算通りの「負け」に収束する。

胴元は、一人の客が勝とうが負けようが気にしません。何千人、何万人が何万回も試行してくれることで、大数の法則により、確実に数%の利益が積み上がることを知っているからです。


6.まとめ:数学を知ることは、身を守ること

ギャンブルを「娯楽」として、減るお金を入場料だと割り切って楽しむなら、それは個人の自由です。

しかし、「儲けよう」と思って手を出しているのであれば、それは数学という巨大な敵に素手で挑むようなものです。

期待値を計算し、大数の法則を理解すれば、目先の勝ち負けに一喜一憂することがなくなります。

「感情」ではなく「計算」で判断する。

これこそが、数学を学ぶ最大のメリットではないでしょうか。

次にお金を使う時は、ぜひ一度立ち止まって「この期待値はプラスか?」と問いかけてみてください。

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