「あと1枚」の沼はなぜ生まれる? コンプガチャを数学で解き明かす!
スマートフォンゲームで、誰もが一度は熱中する「ガチャ」。特に、全てのアイテムを集めると特別な報酬がもらえるコンプリートガチャ(コンプガチャ)は、魅力的でついつい回してしまいますよね。
全 $N$ 種類のカードやキャラクターを集めるチャレンジ。順調に集まっていたのに、「最後の1枚」だけがなぜか全然出てくれない…!そんな「あと1枚」の沼にハマった経験はありませんか?
「運が悪いのかな?」「本当に平等な確率なの?」
その疑問、実は数学でスッキリと説明できるんです。
~この記事でわかること~
・特定の確率 $p$ の出来事が起こるまでの期待回数の求め方。
・「最後の1枚」を引くとき、必要な期待回数がなぜ急激に増えるのか。
・全 $N$ 種類をコンプリートするために必要な総期待回数を求める式。
・レアリティ(確率が均等でない場合)が、コンプリートの「沼」にどう影響するか。
🎲 この現象は「確率」と「数列」で計算できる!
このコンプガチャの現象は、数学の世界では「クーポンコレクター問題 (Coupon Collector’s Problem)」と呼ばれています。
この問題のゴールは、全 $N$ 種類のアイテムをコンプリートするために、平均して何回ガチャを引く必要があるかを計算することです。
「平均して」という言葉がヒント。高校で習う「期待値」と、規則性を持つ「数列」の知識を使えば、誰もがハマる「沼」の深さを正確に測ることができます。
さあ、あなたのゲーム体験の裏側に潜む、美しい数学の法則を一緒に探究しましょう!
ステップ1:基本の「期待値」を理解する
まず、計算の基本となる「期待値」の考え方を確認します。
特定の確率 $p$ で起こる事象が、初めて起こるまでに平均で何回試行が必要か(期待回数 $E$)は、シンプルな式で計算できます。
$$E = \frac{1}{p}$$
たとえば、コイン投げで「表」が出る確率は $p =$ $\frac{1}{2}$ です。
$$\text{表が出るまでの期待回数 } E = \frac{1}{1/2} = 2 \text{ 回}$$
平均すると、2回投げれば1回は表が出ることが期待できます。
この$E =$ $\frac{1}{p}$の考え方が、「コンプガチャの沼」を解き明かす鍵となります!
次のステップでは、この基本ルールを使って、コンプリートまでの道筋を段階的に見ていきましょう。
ステップ2:コンプリートまでの「壁」の高さ🧗

前ステップで、特定の確率 $p$ の事象が初めて起こるまでの期待回数 $E$ は $E =$ $\frac{1}{p}$ であることを確認しました。このシンプルな法則を使って、コンプガチャの道のりをシミュレーションしてみましょう。
ここでは、アイテムの総種類数を $N$ とし、どのアイテムも等しい確率で出現すると仮定します。
最初の1枚(0種類 $\to$ 1種類)
最初の1枚を引くことは簡単です。まだ何も持っていないので、ガチャを引けば必ず新しい種類が出ます。
- 現在持っている種類: 0種類
- 新しい種類が出る確率 $p_1$: $\frac{N – 0}{N}$ $=$ $\frac{N}{N}$ $= 1$
- 1種類目を引くまでの期待回数 $E_1$: $\frac{1}{p_1}$ $=$ $\frac{1}{1}$ $= 1\text{回}$
これは当然ですね。最初の1回で必ず1種類目は手に入ります。
2枚目の壁(1種類 $\to$ 2種類)
次に、1種類持っている状態から、2種類目(新しい1枚)を引くことを考えます。
- 現在持っている種類: 1種類
- 新しい種類が出る確率 $p_2$: $N$ 種類のうち、既に持っている1種類を除く$N-1$ 種類のいずれかが出る確率です。$$p_2 = \frac{N – 1}{N}$$
- 2種類目を引くまでの期待回数 $E_2$:$$E_2 = \frac{1}{p_2} = \frac{1}{\frac{N-1}{N}} = \frac{N}{N-1}$$
もし $N=10$ 種類なら、2種類目を引く確率は $\frac{9}{10}$ で、期待回数 $E_2$ は $\frac{10}{9}$ $\approx 1.11$ 回。まだ非常に軽い「壁」です。
沼の入り口:最後の1枚の壁($N-1$ 種類 $\to$ $N$ 種類)
さて、いよいよ本題です。全 $N$ 種類のコンプリートまで「あと1枚」という状態($N-1$ 種類持っている状態)を考えてみましょう。
- 現在持っている種類: $N-1$ 種類
- 新しい種類が出る確率 $p_N$: $N$ 種類のうち、残りの1種類が出る確率です。$$p_N = \frac{N – (N-1)}{N} = \frac{1}{N}$$
- 最後の1枚を引くまでの期待回数 $E_N$:$$E_N = \frac{1}{p_N} = \frac{1}{\frac{1}{N}} = N\text{回}$$
もし $N=10$ 種類なら、最後の1枚を引くには平均で $10$ 回もガチャを回す必要があるということです。
💡 数学的な気づき:「あと1枚」は常に重い
この $E_N$ の計算から、重要な事実が見えてきます。
コンプガチャにおいて、最後に残された1枚を引くために必要な期待回数 $E_N$ は、アイテムの総種類数 $N$ と等しい、ということです。
$N$ が大きくなればなるほど、最後の1枚の確率は小さくなり、その壁は高くなります。これが「あと1枚」が出ない沼の正体なのです!
ステップ3:総期待回数は「足し算」で求まる ➕

これまでのステップで、コンプリートまでの各段階(ステージ)で必要な期待回数 $E_k$ が分かりました。
全 $N$ 種類のコンプリートに必要な総期待回数 $E$ は、各ステージの期待回数をすべて足し合わせることで求まります。これは期待値の線形性という数学の性質に基づいています。
$$E = E_1 + E_2 + E_3 + \dots + E_N$$
各ステージの期待回数 $E_k$ を整理する
種類が $k-1$ 個集まった状態から、$k$ 個目の新しい種類を引く確率 $p_k$ は、残りの $N – (k-1)$ 種類を引く確率ですから、
$$p_k = \frac{N – k + 1}{N}$$
したがって、その期待回数 $E_k$ は次のようになります。
$$E_k = \frac{1}{p_k} = \frac{N}{N – k + 1}$$
| ステージ k | 現在持っている種類 | 新しい種類が出る確率 pk | 期待回数 Ek |
| $k=1$ (1種類目) | 0種類 | $\frac{N}{N}=1$ | $E_1 = \frac{N}{N} = 1$ |
| $k=2$ (2種類目) | 1種類 | $\frac{N-1}{N}$ | $E_2 = \frac{N}{N-1}$ |
| $\dots$ | $\dots$ | $\dots$ | $\dots$ |
| $k=N-1$ ($N-1$種類目) | $N-2$種類 | $\frac{2}{N}$ | $E_{N-1} = \frac{N}{2}$ |
| $k=N$ (最後の1種類) | $N-1$種類 | $\frac{1}{N}$ | $E_N = \frac{N}{1} = N$ |
総期待回数 $E$ の式を導く
これらの期待回数を合計します。
$$E = 1 + \frac{N}{N-1} + \frac{N}{N-2} + \dots + \frac{N}{2} + \frac{N}{1}$$
この式から $N$ をくくり出すと、美しい数列の形が現れます。
$$E = N \times \left( \frac{1}{N} + \frac{1}{N-1} + \frac{1}{N-2} + \dots + \frac{1}{2} + \frac{1}{1} \right)$$
数学の知識と繋げる:調和数列の登場 🎵
括弧の中身の数列
$$1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \dots + \frac{1}{N}$$
は、高校の「数列」で学ぶ調和数列の和です。これは $H_N$ と表記されます。
したがって、コンプガチャの総期待回数 $E$ は、アイテム総種類数 $N$ と調和数列の和 $H_N$ を掛け合わせたもので計算できるのです。
$$E = N \times H_N$$
結論:具体的な数値で「沼」を実感する 📊
この式を使って、具体的な $N$ の場合の期待回数を計算してみましょう。
例1:全 $N=10$ 種類の場合
$$H_{10} = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \dots + \frac{1}{10} \approx 2.9289$$
$$E = 10 \times H_{10} \approx 10 \times 2.9289 = 29.289 \text{回}$$
全10種類をコンプリートするには、平均して約29.3回ガチャを引く必要があります。
例2:全 $N=50$ 種類の場合
$$H_{50} = 1 + \frac{1}{2} + \dots + \frac{1}{50} \approx 4.499$$
$$E = 50 \times H_{50} \approx 50 \times 4.499 = 224.95 \text{回}$$
種類が5倍になったのに、必要な回数は $29.3 \times 5 = 146.5$ 回をはるかに超える約225回に跳ね上がりました!
この計算結果は、総種類数 $N$ が大きくなるほど、コンプリートに必要な回数 $E$ がより速く、より大きく増えることを示しています。これが、私たちが「沼」と感じる、数学的に証明されたコンプガチャの恐ろしい正体なのです。

発展:自然対数 $\ln$ との美しい関係
$N$ が非常に大きいとき、調和数列の和 $H_N$ は自然対数 $\ln N$ を使って近似できることが知られています。
$$H_N \approx \ln N + \gamma$$
($\gamma$ はオイラー・マスケローニ定数 $\approx 0.577$)
つまり、総期待回数 $E$ はおおよそ $N (\ln N + 0.577)$ に従います。高校で習う数列が、自然対数の底 $e$ という壮大な数学の定数と繋がっていることは、数学の奥深さを示していますね。
番外編:レアリティが不均等な場合のシミュレーション
カードの総種類数は $N=10$ です。各カードの確率は以下の通りです。
| レアリティ | 種類数 | 1枚あたりの確率 | 合計確率 |
| ノーマル (N) | 7種類 | 13% (0.13) | $7 \times 0.13 = 0.91$ |
| レア (R) | 2種類 | 4% (0.04) | $2 \times 0.04 = 0.08$ |
| スーパーレア (SR) | 1種類 | 1% (0.01) | $1 \times 0.01 = 0.01$ |
| 合計 | 10種類 | – | 1.00 (100%) |
この場合の総期待回数 $E$ を正確に計算するのは複雑ですが、コンプリートの「沼」がどこにあるのかを理解するために、最も沼が深くなる瞬間と全体の期待回数の近似値を見てみます。
最も沼が深くなる瞬間:最後の1枚がSRの場合
コンプリートの道のりにおいて、最後に残った1枚がスーパーレア(SR)だった場合を考えます。
SRの確率は $p_{\text{SR}} = 0.01$ (1%) です。
この最後のSRを引くまでの期待回数 $E_{\text{SR}}$ は、
$$E_{\text{SR}} = \frac{1}{p_{\text{SR}}} = \frac{1}{0.01} = 100 \text{回}$$
つまり、他の9枚を全て集めた後、最後のSR1枚を引くためだけに、平均して100回のガチャを回す必要があるということです。
これは、均等な確率(10種類全て10%)の場合の最後の1枚の期待回数 $E_{\text{均等}} = 1/0.1 = 10$ 回と比べると、10倍も重い壁になります。
総期待回数の近似値 💡
確率が不均等な場合の総期待回数 $E$ は、全種類を引くまでの平均試行回数の合計として計算されます(前述の包除原理の式)。
この場合の厳密な計算結果は $E \approx 138.5$ 回となります。
| 比較対象 | 総期待回数 E |
| 今回の不均等な確率 | 約 138.5 回 |
| 確率が均等な場合 (10種類) | 約 29.3 回 |
驚きの分析
- 全種類の期待回数は約138.5回であり、確率が均等な場合の約29.3回を大きく上回っています。
- この138.5回のうち、最後の1枚(SR)を引くための100回が、全体の総期待回数を押し上げている最大の要因であることがわかります。
ノーマルカード(13%)なら $1/0.13 \approx 7.7$ 回で手に入るのに、SR(1%)の存在によって、コンプリートを目指す人は平均で約138.5回のガチャを回す必要が出てきます。
これが、特定のレアリティが低いカードの存在が、コンプガチャ全体の期待回数を飛躍的に増大させるという、確率の非均等性が生み出す「沼」の正体なのです。



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