~この記事でわかること~
$a\sin{x}+b\cos{x}=0$が$x$の恒等式となる$a$と$b$の必要十分条件
$a\sin{x}+b\tan{x}=0$が$x$の恒等式となる$a$と$b$の必要十分条件
$a\cos{x}+b\tan{x}=0$が$x$の恒等式となる$a$と$b$の必要十分条件
高校数学の数学Ⅱの分野で初めて「恒等式」という言葉が出てくる.
定義は以下のとおりである.(高校程度の言葉でいうと)
定義(恒等式)
$F(x)=G(x)$が任意の$x$について成り立つとき$F(x)=G(x)$を恒等式という.
特に
$$ax^{2}+bx+c=a’x^{2}+b’x+c’$$
が任意の$x$について成り立つときは$a=a’ , b=b’ , c=c’$となる.
教科書には整式についての恒等式となる条件が書いてあるが他の三角関数や対数関数については書かれていない.そこで今回は三角関数の恒等式について考えていこうと思う。また,以下の定理(定理Ⅰと定理Ⅱ)は代入法を用いれば簡単に示すことができるが,あえて代入法を用いずに証明した.
定理Ⅰ
$a\sin{x}+b\cos{x}=0$が$x$の恒等式となる $\Longleftrightarrow$ $a=b=0$である.
~証明~
$\Longleftarrow$については自明
$\Longrightarrow$について
三角関数の正弦($\sin$)の合成をすると
$$a\sin{x}+b\cos{x}=\sqrt{a^{2}+b^{2}}\sin{(x+\alpha)}$$
ただし,$\sin\alpha=$$\frac{b}{\sqrt{a^{2}+b^{2}}}$,$\cos\alpha=$$\frac{a}{\sqrt{a^{2}+b^{2}}}$である.
よって,
$$\sqrt{a^{2}+b^{2}}\sin{(x+\alpha)}=0$$
ここで,$\sin{(x+\alpha)}=0$は恒等式ではないので
任意の$x$について$\sqrt{a^{2}+b^{2}}\sin{(x+\alpha)}=0$が成り立つためには,
$$\begin{eqnarray}
\sqrt{a^{2}+b^{2}}&=&0 \\
a^{2}+b^{2}&=&0
\end{eqnarray}$$
よって,$a=b=0$となる. ▯
定理Ⅱ
$a\sin{x}+b\tan{x}=0$が$x$の恒等式となる $\Longleftrightarrow$ $a=b=0$である.
~証明~
$\Longleftarrow$については自明
$\Longrightarrow$について
$\sin{x}=\cos{x}\tan{x}$を用いて
$$\begin{eqnarray}
a\sin{x}+b\tan{x} &=& a\cos{x}\tan{x}+b\tan{x}\\
&=& \tan{x}(a\cos{x}+b)\\
\end{eqnarray}$$
よって,
$$\tan{x}(a\cos{x}+b)=0$$
$\tan{x}=0$は恒等式ではないので
任意の$x$について成り立つためには
$$a\cos{x}+b=0$$
が恒等式となればよい.
また,$\cos{x}=0$は恒等式ではないので$a=b=0$となる. ▯
定理Ⅲ
$a\cos{x}+b\tan{x}=0$が$x$の恒等式となる $\Longleftrightarrow$ $a=b=0$である.
~証明~
$\Longleftarrow$については自明
$\Longrightarrow$について
$$\begin{eqnarray}
a\cos{x}+b\tan{x} &=& a\cos{x}+b\frac{\sin{x}}{\cos{x}} \\
&=& \frac{1}{\cos{x}}(a\cos^{2}{x}+b\sin{x}) \\
&=& \frac{1}{\cos{x}}(a(1-\sin^{2}{x})+b\sin{x}) \\
&=& \frac{1}{\cos{x}}(-a\sin^{2}{x}+b\sin{x}+a) \\
\end{eqnarray}$$
よって
$$\frac{1}{\cos{x}}(-a\sin^{2}{x}+b\sin{x}+a)=0$$
$\frac{1}{\cos{x}}$$=0$は恒等式ではないので,
$$-a\sin^{2}{x}+b\sin{x}+a=0$$
が恒等式となればよいから,$a=b=0$ ▯
今回は三角関数が恒等式となるパターンを3つ紹介した.
どれも予想通りの結果かと思うがもし証明しなければいけない機会ではぜひ使っていただきたい.
ただ、試験時に証明なしで使えかは採点者によるので注意してもらいたい.
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